十年ぶりに高校の友人と会った話
友人との不意な再会は食料品売り場だった。
飲料を品出ししているのを偶然見つけ、本人だという確証は持てずに近くをウロウロしながら、数分間様子をうかがった。
友人だと確証を持てたのは、彼の首から下げられていたネーム。
しっかり彼の姓が書かれていた。
ほぼ彼だと確信して話しかける。
「〇〇高校の新米パパだけど、覚えてる?」
彼は記憶を掘り起こしながら「ああ、お前か」と、思い出してくれた。
彼には自分にない魅力があった。
「俺はカッコイイ」
「俺は強い」
「空が青いな」
彼は自信家で自分の世界を持っていた。
「俺はカッコイイ」といっても、昔も再会した時も、体重が80や90kgあってぽっちゃり体型。
クラスではマスコットのように思われていた。
「俺は強い」といっても、クラスの中で一番強いわけではなさそうだった。
だけど、何度か事故にあって無傷や軽傷だったりというのには強さを感じていた。
休み時間に「空が青いな」と言われ、たそがれながら喋らなくなったのには困惑したりもした。
一言でいえば変なやつ。
だけど、それが大好きだった。
話しは互いの近況について話した。
新米パパは正社員としての定職にはつけてないと言い、彼は交通事故をきっかけに正社員を辞めることになり、色々バイトをしてきたが、今はスーパーのバイトで品出しをしていると答えた。
高校時代は彼にちょっかいを出し、走って追いかけられる日常をおくっていた。
しかし、彼は「事故で、もう走れない体になった」と言ってきた。
二度と戻れない青春にショックを感じた。
30歳近くのおっさんになったけど、冗談を言いながら彼に追いかけられるのを、心のどこかで望んでいた。
一緒に走れない現実に、胸がキリキリと締め付けられる。
「服で見えないだろうが、腰をだいぶ悪くしている」
彼の続けた言葉は、高校時代の自身に満ち溢れていた言葉の欠片すら残ってなかった。
強いんじゃなかったのかよ!
できないなんて悲しいこというなよ!
彼には言えず胸にしまい込み、仕事の邪魔にならない程度に話を切り上げた。
彼は仕事中だったので、話したいことをすべて話せたわけではなかった。
まだ、結婚して子供がいることを伝られていない。
次に会った時は家族ができた幸せを伝えられたらと思う。
今回の再会で、リサや妻たちと一緒にいられる一瞬一瞬の大切さがわかった。
今日出来ても明日出来なくなることがあるかもしれない。
我慢せずに、やりたいことをしっかりやった方が人生は充実する。
だから、新米パパはリサと妻に今日も愛情を注ぐ。
未来に後悔しないように。